「長生きして幸せ」と言ってもらえる介護職に

みなさん、こんにちは。

今回は久しぶりに公益財団法人介護労働安定センターが毎月発行している

『CAREWORK11月』から社会福祉法人敬心福祉会 人材育成担当

山口 晃弘さんのコラムをご紹介します。

 

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96歳の女性入居者Hさんは、3か月前に特養に入居されました。

ご主人は早くに先立たれ、男の子3人を女手一つで育ててきました。

3人の息子さんが自立して家を出た後は、一人暮らしをされていました。

しかし、自宅内で転倒し、頭部から出血して救急搬送されたことをきっかけに、

特養に入居することになったのです。

 

(中 略)

しかし、入居してから2か月が過ぎた頃、Hさんに異変が起きていました。

活気がなく、表情は明らかに元気がない。会話もかみ合わず、

特に明け方に、その症状は顕著になりました。

ある日の明け方、職員が部屋を訪れると、

Hさんは床に排尿をされていました。

普段はそのようなことはありません。

職員に声をかけられ、我に返ったHさんは、

大変なショックを受けました。

なぜそんなことをしたのか、自分でもわからない。

それからのHさんは、いつも両手で顔を覆い、職員の声掛けにも

うつろな表情をされるばかりでした。

 

ある日、私は夕食後に食堂へ行き、

「Hさん、今から少しお散歩しに行かない?」と誘いました。

Hさんは驚いた表情で、「え? でももう夜でしょ? 」と言いました。

私が「夜に出かけるくらい、いいじゃん。子どもじゃないんだから」

と言うと、「行きたい! 」と喜んでくださいました。

近所のスーパーの前で、2人で野菜ジュースを飲みながら話をしました。

ずっと東京で生活をしているHさんですが、東京タワーに行ったことが

ないとのこと。

「じゃあ、今度行こうか? 」私がお誘いすると、

Hさんは「きゃー! 本当!?  行きたい! 」と大喜びしてくれました。

「どうせなら、夜に行こうか? 東京の夜景を見せてあげる」

と約束しました。

 

(中 略)

東京タワーに行く前日の朝。

「いよいよ明日だね!」と声をかけると、

「そうだね! 楽しみだわ!! 」と笑顔を見せてくれましたが

午後にはやはり憂鬱な表情に。

 

そんなHさんを喫茶室に誘って話を聞きました。

心を開いてくださったのか、Hさんはご自分のこれまでの人生を

紐解くように話してくれました。

戦争中、戦後の苦労。3人の子どもに恵まれた喜び。ご主人との別れ。

女手一つで3人の子どもを育ててきたこと。

子どもたちがそれぞれ家庭を持ってからの一人暮らし。

 

「自由に気ままにやってきたけどね。96歳にもなると、

一人暮らしは不自由で、家で転んで頭を打っちゃたの。

倒れているところをヘルパーさんが発見してくれて、

救急車で運ばれたのよ。

お医者さんが息子に、もう一人暮らしは無理って言ったみたい。

その時、息子から言われたの。『老人ホームに入ってくれ』って。

辛かったですよ。本当に辛かったわ。

でもね、私が老人ホームに入れば、息子は幸せになれるんです。

子どもの幸せを願わない親がいますか?

だからね。私は今でも息子が面会に来ると言うの。

『ここはいい所よ。おトイレ行きたいって言えばすぐに連れて行って

くれるし、食事も美味しいし、みんなに親切にしてもらって、

お母さんは今が一番幸せ』って」

そう言いながら、Hさんは涙を流していました。

 

私の心の中に、悲しみ、悔しさ、複雑な感情があふれてきました。

Hさんは続けて、「あたし呆けちゃったんでしょ? 誰も本当のことを

言ってくれない。お願い! 教えて! あたし呆けちゃったのよね? 」

と私に詰め寄りました。

「大丈夫。明日、俺が呆けが治っちゃう魔法をかけるから」

私はHさんに約束しました。

 

東京タワー企画当日。おしゃれをして出かけたHさん。

夜の新宿、六本木を抜け、人生初の東京タワーへ。

その表情は、昨日までとは全く違いました。

「夜遊びなんて、何十年ぶりかしら」と無邪気に笑うHさん。

展望台から東京の夜景を見るHさんの眼は、キラキラと輝いていました。

「こんな素敵な景色は初めて見ました。長生きしてもろくなことがないと

思っていたけど、そんなことなかった。幸せだわ~ 」と

会心の笑顔を見せてくれました。

 

「夕食は何がいい? 」と聞くと、

東京タワーのフードコートを見渡したHさんは、

「ピザはいいね~ 」と嬉しそうに笑いました。

「ピザ食べたことあるの? 」と聞くと、

「ないよ。初めて」。そう言って

顔より大きなピザを頬張りながら、

「幸せだね~」とビックリするほどよく食べていました。

 

帰りの車内。何度も何度も「ありがとう」と言ってくれたHさん。

施設に帰るのが惜しいようで、

「もうちょっと遊んで行こうか?」と言って大笑いしていました。

 

この日を境に、Hさんの認知症のような症状は出なくなりました。

人生には楽しみがあることが大事です。

そして、施設に入居してくる方たちには、一人ひとりに人生があることを

私たち職員は知るべきです。

入居に至るまでに、ご本人はもちろん、ご家族にどんな葛藤があるのか。

ご家族だって、大切な親を施設に預けたいわけがない。

みんなやむを得ない事情があって、入居に至るのです。

 

そういった人たちの思い、願いを私たちは知っているでしょうか。

受け止めているでしょうか。

一人ひとりに ”人生” という物語があります。

だからこそ、優しくしてください。心で向き合ってください。

高齢の方たちに、

「苦労して生きてきたけど、長生きした甲斐があったよ」

そ言ってもらえる介護職でありたいです。

 

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いかがでしょうか。

職員のみなさんが、お年寄りのこのような気持ちに思いを馳せることができるならば

昨今のような施設での虐待やまして殺人事件など起きるはずがないと思いますが・・。

 

 

 

 

よしだ労務管理事務所

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